きのこの山・たけのこの里論争【aloha川越 vol.57】

きのこの山・たけのこの里論争(きのこのやま・たけのこのさとろんそう)とは、2023年(令和5年)に、就労支援事業所aloha川越の施設長Yが、国民的銘菓「きのこの山」及び「たけのこの里」の優劣について、「たけのこの里の方が優れているのではないか」と思案したことに端を発するSST(ソーシャルスキルズトレーニング)形式のグループワークである。Y施設長を含む「たけのこの里派」と「きのこの山派」の2グループに分かれて激論を交わした。

 

SST

論争中のaloha川越の様子。

論争の概要


aloha川越の施設長であるYは、定期的に事業所内で実施しているSSTについて、次回の実施案を考えていたところ、同僚からの助言により「二者択一」というテーマを思いついた。2023年(令和5年)5月、堅苦しいSSTよりも楽しいSSTを行いたいと考えるY施設長は、菓子でも食べながら気軽に参加できるイベント感覚のSSTとするため、近所のスーパーマーケットに菓子を買いに行った。Y施設長は陳列された菓子類を眺め、この時初めて「きのこの山とたけのこの里はどちらが本物の銘菓であるのか?」という問題を想起したとされる。

Y施設長は試みに事業所の職員及び利用者等に意見を求めた。結果、「きのこの山の方が優れている」という主張と「たけのこの里の方が優れている」という主張とに分かれた人々は互いに立場を譲ることはなく、思いのほか議論が白熱するのを目の当たりにしたY施設長は心を打たれた。Y施設長は「たけのこの里推し」であったため、この事実は些か不服であった。

翌週、Y施設長は上司のW部長に相談し、事態はいよいよ深刻であることを告げ、議論によって(たけのこの里が優勢であるという)決着を付けなければならないと説明した。W部長はY施設長の意見に賛同し、ついには会社の会議においてこの論題をSSTにおいて取り扱うべきことを発表した。

翌6月、最終的にきのこの山派5名、たけのこの里派6名の2派が組織されると、ついに機が熟したことを認めたW部長はSSTの開始を宣言した。

たけのこの里派の主張


たけのこの里が擁護されるに足る意見として、主として以下のような意見が提起された。

たけのこの里

たけのこの里が優れたる所以を想起し、意見を票に書き記すたけのこの里派の様子。

  • 一部の有識者の間では、たけのこの里を砕いてスーパーカップに振りかけると俄かに味が変化し、極めて美味となる(個人の感想です)ことが知られている。では、これらの菓子の価値は常にそれ単体で図られるべきものではなくして、他の食物との連関の中においていかに調和し、精緻なバランスを成すかによって評価されるべきものなのである。
  • チョコレートの糖度において、たけのこの里はきのこの山よりいっそう甘い仕上がりである(個人の感想です)。
  • そもそも本物のたけのこが好きである(個人の感想です)。
  • そもそも本物のきのこが嫌いである(個人の感想です)。きのこはを連想させるから、ある種の象徴としてしばしばきのこは悪と分かちがたく結びついているのである。
  • 成分表を見ると、原材料の種類が多く製造に手間がかかっており、とりわけ、たけのこの里にはきのこの山には入っていないアーモンドが含まれている。
  • 造形が美しい(個人の感想です)。きのこの山に比してたけのこの里はチョコレートの膜が薄い仕上がりである。にも関わらず、この薄い膜の表面にたけのこの表皮を忠実に再現する技術は、大量生産品に関して言えば世界に類を見ない高度な技術である。

きのこの山派の主張


対して、きのこの山派の見解は以下のようなものであった。

きのこの山

箇条書きで意見をまとめているきのこの山派。

  • きのこの山は、同一の金額ながらたけのこの里に比べて一袋あたりの内容量が若干多く、コストパフォーマンスに優れている。
  • 成分表によれば、きのこの山に含有されるアレルギー物質はたけのこの里より少ない。どれだけ高等な料理であっても、アレルギーによって食することが叶わないならば空虚である。それ故、アレルギー物質含有量が少ないというただ一つの根拠によって、既に我々はたけのこの里派に対する勝利を確信するのである。
  • チョコレートが甘すぎず、美味である(個人の感想です)。
  • クッキー部に程よい硬さがあり、口当たりが心地よい(個人の感想です)。
  • クッキーの造形が串の役割を果たしており、この串を持つ限り手がチョコレートによって汚れることがない。このようなプラグマティックな特徴は、殊に平均気温が上昇する夏季におけるチョコレートの半溶解状態について重要な意味を持つだろう。
きのこの山

意外なほど、多くの意見が出された。

判決


SST

きのこの山派の論客Y職員。切れのある主張を展開した。余談だが、フランス革命においてロベスピエールは「山岳派」であった。

午前11時40分、W部長は次のように判決を言い渡した。

「(前略)一般に菓子の価値は味の美味なることはもとより、その金額の高低、含有する成分、造形等の極めて複雑な因子及びその相関を考慮しつつ、個々人の価値観によって個別具体的に判断されるべき性質を有している。従って、当該菓子類の優劣を絶対的なものとして断ずるにあたっては、これらの複雑な因子の中にさえ個々人の価値観を超越し得る絶対性が含まれている必要があると言える。しかしながら、たけのこの里派・きのこの山派の別を問わず、その展開する主張はいづれもどちらの立場を取るかによって容易に転換を可能とする相対的な論理に依っているように思われる。また、個々人によってその価値が恣意的に変化させられ得ない「金額的価値」という観点から見たとき、当該菓子類の価額が同一であることについては、先にきのこの山派が主張をした通りである。(中略)以上のことを鑑みるに、Y施設長の元来の主張である「たけのこの里優位論」には十分な説得力が無く、よってこの主張は無効である。他方で、きのこの山及びたけのこの里のように歴史が長く、あまねく日本全国に普及し、通常生きていれば誰でもその存在を認知し得る銘菓について、そのどちらが優れているかというような問題は、その結果一つで日本国民を分断し、社会秩序の崩壊を招来し得るために高度な政治的判断を必要とする問題である。このような問題について本SSTは、一方の菓子が一見してきわめて明白に優位であると認められない限り、最終的な判断を下すことを留保する」

論争の結果


  • この論争の結果、きのこの山とたけのこの里の立場は原則として対等である的な感じになった。
  • aloha川越では異なる意見の二派に分かれて本SSTを行った後、異なる意見を持った他者の意見を尊重し、どのようにディスカッションを行うべきかについてまとめを行った。その後、ついでに「aloha川越の良い所」と題して全員で意見を出し合う時間を設けた。
  • わりと楽しいSSTであったため、今後も同様のフォーマットで二者択一のグループワークを行っていく見通しとなった。

Bye✋